タウン誌を作ろう!
授業が停滞する(2013年1月17日連載開始)
 授業はいつもうまく行くというものでは勿論ない。時々刻々変化する教室の雰囲気を教師は感じているし、何よりも子どもたちの表情や言葉、身振りふるまいに如実に表れてくる。その時間だけで修正できることもあれば、日々を重ねてつづくこともある。そんなときには子どもたちにとっても教師にとっても、もがけばもがくほどに混乱の深みに滑り込んでいくような気がしたりするものだ。
 新しい年度がスタートした4月、3年生の学年の打ち合わせで、この学年ではクラスにこだわらないで学年の取り組みを大胆に取り入れて行こうと話し合った。すべての教科を通して、子どもたちが自ら「ふしぎ」を見つけ、試行錯誤しながら追求するような取り組みができたらいいなぁ。「あれぇ、なぜだろう、ふしぎだなぁ」と思ったら、事典や図鑑、インターネットを使って調べたり、人と出会い、聞き、話す、実際に手に触れてみる、実験してみる等々といったように、「ああだろうか、こうだろうか」「こうしてみたらどうだろう、なるほど」と、「あの手・この手」を使って問題解決に取り組むような学習の仕方を身に付けてほしいね、などと担任同士がこの1年間に掛ける抱負を語り合った。
 さっそく、学年の合同体育や合同音楽、そしてオペレッタをやって全校生の集まるフェスタで発表しようなどと次々に年間の構想が生まれてくる。「マイタウンねやがわ・ふしぎ探検隊」も、子どもたちが目を輝かせ、市内のあちらこちらに足を運んで調べ、ふしぎを発見して、活発に意見を交流する姿を思い描きながら始めることになった取り組みであった。
 クラスで校区をフィールドワークする。「気づいたこと、ふしぎ、考えたこと」のテーマでノートを書く。教室で発表・交流する。それを繰り返しながら、担任が情報交換して各クラスで子どもたちが興味を示した所や、意見が交わされて焦点化した課題を整理して、10のグループを作った。子どもたちはクラスの枠をはずれて、「もっと自分が調べてみたい所・課題・テーマ」でグループを選んだ。自分が選択した新しいグループでフィールドワークが始まった。
 ところが、子どもたちに活気が見られない、問題追求する姿も生まれてこない。教師たちの期待も大きかっただけに落胆もひときわ大きなものとなった。

「箱モノ」の総合学習(2013年1月28日更新)

 原因は、フィールドワーク・ノート・意見交流を繰り返すという、これまでにパターン化されてきた「校区探検」の授業を追体験したに過ぎなかったからではないかと思っている。クラスの枠を解体して、各自が自分の興味のあるグループに入って調べるという、目先を変えようとはしたのだが、結局「箱モノ」の総合学習に終始することになってしまった。

 子どもたちも教師の敷いたレールに乗っかって流されただけかといえば、必ずしもそうではない。Y君は、フィールドワークで訪ねた公園にあった大きな「平和の塔」と、その公園の植え込みの中にひっそりと建っている「原爆被害者の会の碑」を見つけ、〈ふしぎ〉が生まれた、「これはいったいなんだろう、なぜ公園の中に建っているのだろう」と。そして、朝登校する前に公園に寄って「碑」の文を書き写してきた。

(おもて)※Y君のノートのまま

かくへいきはいぜつもとめ

れきしにいきる

ひばく50しゅうねんしょくじゅきねん

(うら)

ねや川市げんばくひがいしゃのかい

ねや川市ざいじゅう三百よめい

一九九六年三月一日こんりゅう

 「見つけたこと・ふしぎ・考えたこと」のクラスの交流で、Y君は発言した。多くの質問や意見が交わされて「原ばくひがい者の会の人たちは、なぜみんなでお金を集めてこんな『ひ』をつくったのだろう」という課題が生まれてきた。子どもたちは自分の考えをノートに書く、家でお父さんやお母さんと話し合う人もある。

 学級での話し合いが続く。

・平和な日本でいてほしいから ・日本人には原爆や戦争をしたくない気持ちがある ・今戦争がない、これからも戦争がないように、起こってほしくないから ・原爆が落ちると世界の人々がなくなる。公園に記念碑を建てて大阪にも落としてほしくない気持ちを言っている ・こんな戦争をしたくない、死んでる人を一生見たくない、死んでいくのはイヤや ・多くの人に伝えたいと思って碑を建てた・・・

そして、「原爆被害者の会の人に話を聞けたらなぁ!」「戦争を経験したおじいさん、おばあさんに聞いてみたい」という声が上がってきた。

クラスで取り組む総合学習ならば、松森センセは迷うことなく子どもたちの声に乗っかって、いっしょに「何とかお話を聞けないかものか」とあの手・この手を思案して挑戦したにちがいないのだけれど、今回は学年の学習との思いがよぎってしまい、ひとまずこの課題を置いておくことにした。「学年の歩調を合わせる」という教師の側の都合で、子どもたちの追求を止めてしまったのだ。おそらく教師の気づかないところで、子どもたちの生き生きとした発見やふしぎ、考えがたくさん声に出ないままに消えて行ったのではないだろうか。

フリージャーナリストTさんとの出会い(2013年2月17日更新)
懇談会の席上で、子どもたちの学習に興味を持った一人の保護者が、フリージャーナリストをしている知人にこれまでの取り組みの様子をしゃべって大いに盛り上がったという話をしてくださった。授業も参観したいと言われていることも伺った。それならばと、参観どころかゲストティーチャーとして実際に授業に入っていただこうと、一挙に段取りが進んだ。
2学期、3年生の子どもたちの前に立ったTさんは、子どもたちを巻き込んで取材現場のロールプレイも交えながら、「ジャーナリストの仕事」についてワークショップをしてくださった。記事を書くときの目のつけ方や、現場で身体の部分を使った距離の測り方を教わったり、愛用のずっしりと重い一眼レフ35ミリのフイルムカメラのシャッターを切ったり、相手に取材をお願いする言葉を考えたり、インタビューの仕方を工夫したり、Tさんの取材のアイテムを実際に使ってみたりなどと、子どもたちは具体的な取材のしかたに触れながら嬉々として授業に取り組んでいた。
きょう、Tさんが体育館に来ました。Tさんが来たわけは、ふしぎたんけんのインタビューのしかたを教えてもらいました。Tさんはジャーナリストのしごとをしています。
きれいなトイレをさがすということとなります。どうやってさがすか、がもんだいです。きれいなトイレをみんなが手を上げていってみたらいっぱいありました。①手あらいば ②明るさ ③トイレットペーパー ④車いすの人のためのトイレ ⑤赤ちゃんのすわりばしょ ⑥赤ちゃんのおむつをかえる所 ⑦手あらいばのいち ⑧わしきようしきどっちがいいか ⑨男女こんごうのトイレのほうがいいか ⑩においがくさくない、いろいろありました。
手と体ではかれることもおしえてくれました。長ぼそいつくえを手と体をつかってはかりました。まきじゃくではかりつくえにつけました。すこしはばがありました。・・・
 子どもたちの前に色々な種類の新聞が並べられ、こんな新聞があるんだよ、こんなの見たことありますか、これも新聞です…、と目の前に掲げられるたびに笑いが怒ったりため息が漏れたり様々な反応が生まれてくる。Tさんが編集したり取材して作った、それぞれの地域の特色を活かしたタウン誌も紹介してくださった。
 最後に、「みなさんの‟ふしぎたんけんたい“で、自分たちの住んでいる町のことが分かったらぜひ教えてほしいな。みなさんの手で『タウン誌』が作れたらすばらしいね。もしできたら、私にも送ってください」との言葉で締めくくられた。
 この日を境に、今すぐにでも取材に飛び出したいと言わんばかりのやる気を、子どもたちは見せ始めた。

壁新聞(2013年3月8日更新)

 1学期‟ふしぎ探検隊“で調べたテーマで「壁新聞」を作ることにした。さっそく子どもたちは取材の計画を練る。最初の挨拶の言葉から、質問すること、持ち物、注意することなど詳しく打ち合わせをする。

「取材計画ノート」から

1.きゅうきゅうセンター・さか口しんりょうしょ

2.調べたいこと、インタビューしたいこと

・どんな仕事をしてるんですか ・こまることはありませんか ・どんなへやがありますか ・朝の何時から夜の何時まであいていますか ・働いている人は何人ですか ・いつたてられたんですか ・なんでたてられたんですか ・お客さんはどれくらい来ていますか ・いつもあいているんですか ・きゅうきゅう車は何台ですか ・きゅうきゅうしゃにのっている人は1日何人くらいいますか

3.しゅざいのためのどうぐ

カメラ、時計、メモ帳、テープレコーダー、スケッチブック、社会科セット、ひっき用具、かばん

4.注意すること

・静かにする ・いろんなものをさわらない ・病院の人の言うとおりにする ・リーダーの言うことを聞く

 それぞれのグループで挨拶の声を合わせたり、インタビューの練習までいかにも楽しそうに取り組んでいる。そしてどのグループも意気揚々と取材活動に出かけて行った。

 グループごとに壁新聞を作り、全校生に見てもらえるように廊下に掲示した。もちろんTさんにも送って観ていただいた。

タウン誌を作ろう(2013年4月8日更新)

 1月に入り、「タウン誌を作ってみないか」と子どもたちに提案した。取材活動や壁新聞作りに興味とおもしろさを実感していた子どもたちは、一も二もなくやってみたいと賛成した。「Tさんも、みなさんで『タウン誌』が作れたらすばらしいねと言われていたから、出来上がったらぜひTさんにも見てもらおう」と、ちゃっかり子どもたちの心を揺さぶるのにも使わせていただいた。

 「タウン誌へんしゅう実行委員会」を作ると、各クラスからやる気満々の人たちが集まってきた。さっそく3年生全員と保護者に、「自分たちの住んでいる町の『こんなことが知りたい』と、『おすすめ』」のアンケートを取ることになった。たくさんの情報が集まってくる。

 「おうちの人の知りたいこと」では、・0歳の赤ちゃんを散髪する店 ・おすすめの食べ物店 ・駅の高架にできる店を詳しく ・子どもが安全で遊べるところ ・安くておいしい店、新鮮な店・・・

 「おうちの人からのおすすめ」では、・西地区にあるめずらしい北向き地蔵 ・駅前にあるプルミューパンストいうパン屋さんがおいしい ・ポンプ場で花見ができる ・スーパー若葉(お肉や牛乳が安い、日曜日はタマゴが安い) ・市役所の横の自動自転車空気入れ・・・

 「3年生の知りたいこと」 ・寝屋川市に外国人は住んでいますか ・バラエティー以外でキャラクターがいっぱいそろっているところを教えてください ・雨でも遊べる場所 ・寝屋川はどこまで続いているかを知りたい ・むちゃくちゃやすいおかし屋さん、おもちゃ屋さん、本屋さん ・安いゲームやさん・・・

 「3年生からのおすすめ」 ・電車の車庫(電車がたくさん見れる) ・図書館(本がたくさん読める、金がいらん) ・公民館エスポアール(小学生でも幼児でも遊べる) ・平池のキムラヤにある自動販売機(あたりつきでよくあたる) ・あつた神社(秋の終わりはドングリや木がいっぱい落ちている)・・・

 いっぱい寄せられた情報の中から、「知りたいベスト5」「おすすめベスト5」をまとめ、それと2学期に作った壁新聞のテーマとを合わせて、「こんなことをタウン誌に載せたい」という7つの内容が出来上がった。

①店(おすすめの店、知りたい店、校区の日の出商店街、店のコマーシャル、地図をつける)②遊び場(おすすめの遊び場、こんな遊び場さがしています、子どもの選ぶ遊び場ベスト10、遊び場マップ)③川と生きもの(市の下水道課にてってい取材、実際に川を取材)④ゴミ問題(学校から出るゴミ、家庭から出るゴミの行方、パッカー車ついせき、クリーンセンター取材)⑤デイケアとおとしよりのくらし(ゲートボール、カラオケ、老人会などてってい取材、養護老人ホームなど市内のしせつ)⑥原爆被害者の「ひ」・平和の塔(市の平和都市宣言取材、原爆被害者の会の人にインタビュー)⑦しせつ(図書館・公民館・救急センター・自動空気入れ、校区の公民館で「こんなことをやっている」のおしらせ、ダンス教室・カラオケ・老人会)

学習スタッフ募集(2013年4月20日更新)
 3年生の子どもたちは自分のやりたいテーマを選んでグループを作って行く。手慣れた段取りで取材計画を話し合い、もう今からすぐにでも出かけたいと意欲があふれている。しかし110人ほどの子どもたちが一斉に、しかもそれぞれが違う方向に、自分たちの考えた段取りで行動することになる。乗り物を使って移動するグループもある。とてもクラス担任3人だけでは各グループの取り組みに付き添うことはできない。第一安全面の保障もないがしろになってしまう。校内の担任以外の職員の応援を頼んでも、人数に限りがあるしこれからのグループの学習に常時関わることはとてもかなわない。
そこで、ひとつ保護者の力を借りてみるのはどうだろうかと、3年生の教師たちは思案の結果思いついた。これまで、フィールドワークや学校行事のお手伝いをお願いしたことはあったが、今回は「お手伝い・補助」としてではなく、「グループの一員として子どもたちといっしょに活動する学習スタッフ」として参加してもらえないかと考えたのだ。保護者あてにお願いの手紙を配布した。
タウン誌づくりのスタッフになっていただけませんか
いやはやインフルエンザの猛威に振り回された2週間でした。まだ余波が続きそうな勢いでもあるのですが。おかげで3年生の子どもたちが一堂に集う場が持てなくて、完成を目指すオペレッタ『11ぴきのネコ』と、総合学習の『タウン誌づくり』の取り組みの予定が大幅に遅れてしまい、先行きに不安を感じているところです。
先日はタウン誌実行委員会の子どもたちのアンケートに協力くださりありがとうございました。実行委員会ではそれをもとに編集会議を開き、紙面づくりのグループ分けをしているところです。
そこでお願いがあるのですが、保護者の皆様にグループのスタッフとして参加していただき、子どもたちといっしょにインタビュー、写真撮影などの取材活動をしたり、紙面の編集をしたりする活動を手伝っていただけないでしょうか。これまでの授業参観やフィールドワークの時の付き添いではなく、タウン誌づくりの一員として子どもたちといっしょに学習活動に取り組んでいただくようなことを考えています。
1週間に2~3回の総合学習の時間(各2時間ずつ)を予定していますが、その内1・2回参加していただけるとありがたいのですが。私たち教師との打ち合わせ(名付けて「スタッフ会議」)も持ちたいと思っています。
お手数をかけることも多々あるかと思いますが、きっと楽しんでいただけるのではと、期待をふくらませてもいるところです。ぜひ皆様のお力を貸してください。
スタッフとして参加していただける方は、下記に記入して担任まで提出してください。
(2013年5月19日 更新)
 登録していただいた人数は28人、実際には飛び入りも含めて35人くらいのスタッフが参加した。スタッフは、自分が入りたいグループを決め、そのグループの一員として活動する。子どもたちの取っては頼りになるおばちゃんであり、メンバーであり、指導者にもなる。取材に同行したり、原稿書きにもその知恵と力を発揮していただいた。若い頃に(?)その道をめざしたのではと想像されるほど軽妙な筆使いで絵を書き上げていくおばちゃんのまわりで、子どもたちがうっとりとその絵を見つめていたり、グループ会議でおばちゃんの提案に何度もうなずいて聞き入ったり、スタッフを囲む子どもたちの姿がいつも見受けられた。
 子どもたちは顔見知りのおばちゃんの参加を楽しみにしていたし、スタッフ自身も子どもたちとの共同作業を楽しんでいただけたのではなかっただろうか。「寝屋川市に子どもの頃から住んでいるけど、こんなこと初めて知りました」「みんな目を輝かせて取材していましたよ」等々、色々な感想が聞こえてくる。また、3年生のどの教室も保護者に開放し、子どもたちの実態をありのままに見てもらえたと思う。
 1学期授業が停滞してしまったときと比べて、子どもたちの学習活動ははるかに積極的になっていた。インタビューの予約を入れる電話の交渉、カメラとメモを持っての取材活動も生き生きと熱心に取り組んでいる。編集長を中心に活動計画を話し合い、実際に取材して、次回の計画を「具体的に」(と松森センセはいつも言い続けている)決めて、学習を終わるようにしていた。編集長はグループの教室の廊下側の壁に張っている「活動計画表」に記入することになっている。メンバーはいつでもそれを見て携確認することができるし、他のグループの取り組みの様子を知ることもできる(実際にそこまで意識して読んだものは少ないにしても)。
 行動範囲も飛躍的に広がった。校区外への徒歩での移動だけではなく、中央図書館や公民館、クリーンセンター、特別養護老人ホームなどへは市内バスや市役所のシャトルバスも使いながら移動する。スタッフの応援がその活動を支えてくれた。







大人の学習スタッフといっしょに、取材に出かける。市のシャトルバスや、普通バスを使って遠出をするグループもあった。
・川の清掃活動 ・公園を巡る ・店を探す ・市職員に来てもらって施設の話を聞く ・原爆被害者の会記念碑 ・特別養護老人ホーム ・クリーンセンター

タウン誌が完成する(2013年5月27日更新 最終回)

 子どもたちといっしょに参加して学習に取り組む大人の「学習スタッフ」の試みに挑戦してみたが、予想を超えた展開や成果を生み出すことができた一方で、保護者の間でまだまだ十分な理解を得られていない面もあるし、もっと大きな可能性を引き出せていないこともあると思う。「参加したい」と思いながら、仕事の都合でかなわない人たちもたくさんある。しかし、「教師だけが教え、指導する」のではなく、大胆に大人を学習の場に招き入れ、共に学習する一員としてその知恵や技術、力を発揮してもらうことで、子どもたちの学習の機会、学習の世界がさらに大きく広がるのではないかと思っている。

 3年生が終わる3月の修了式間際、タウン誌『ねやがわ夢マップ~私たちじまんの寝屋川市~』が完成した。いち早くフリージャーナリストのTさんに送り、取材でお世話になった人たちに子ども達が手渡しに行った。
 

 

 

 

 

 タウン誌を発行することができたが、子どもたちが4年生になって2号、3号を発行できれば、今度は「タウン誌を作る」ことが目標になるのではなくて、「タウン誌を使って」新たな学習に取り組むということになる。いったいどんな学習が生まれるのか期待が膨らむのだが、残念ながら松森センセは転勤することになってしまった。もちろん希望ではないのだけれど、これもまた学校というところの現実ではある。

(おわり)