初めてのパソコン授業 (2013年8月1日更新)

 情報教育を担当した。基本的にパソコンを操作しながら取り組むことにしている。入学したばかりの1年生が初めてパソコン室にやって来る。担任の先生に「おしゃべりしてはダメですよ。静かにろう下を歩いて、教室に入るんですよ」としっかり注意されているのだろう、足音を忍ばせるかのようにカーペットの上を一歩一歩足を運ぶ。目はテーブルの上に並んだパソコンや、壁に掛けたスクリーン、プリンターなどの周辺機器を興味津々の体で見回している。こんなに意欲に満ち満ちた瞬間を逃す手はない。さっそく授業に入る。
 マウスを持ち上げて、「これ、何に見えますか」と聞く。ハイハイハイと大きな声が入り混じって手が上がる。先生との約束を思い出したのか、もう片方の手で口を押え、背筋をピンと伸ばしてまっすぐに手を上げる人もある。それを見て何人もの人が真似るようにピンと手を高く伸ばす。
新幹線、タマゴの形してる、クワガタや、自動車、ネズミ・・・、まあいろんな名前が挙がってくる。「これを発明した人がね、さてなんという名前にしようかと考えて、チョロチョロチョロチョロと自由自在に動き回るので、ねずみと名付けたんだよ。だからこれ、ネズミと言います」。「ネ・ズ・ミ、へんな名前」、「でもね、発明した人がアメリカ人だから、マ・ウ・スと呼んだんですね」、「知ってる知ってる、お父さんもマウスと言うてたわ」、あちこちから声が上がる。「じゃあ今から、このマウスを使ってパソコンを動かしてみましょう」と言うと、もうどの顔も喜色満面、やりたくてうずうずして堪らない表情を浮かべている。
 スカイメニューで画面を送る。「5・4・3…ゼロ!」と大合唱した後、一人ひとりの前に置いたパソコン画面に次々とデスクトップの画面が現れる。「来たー!」歓声が広がる。「これはねぇ、パソコンの世界の入口です。デ・ス・ク・ト・ッ・プと言います。はい、どうぞ」「デ・ス・ク・ト・ッ・プ」見事に唱和した大合唱が響く。「これから松森センセが、みなさんをパソコンの世界に案内します。ちょっと難しいこともあるから、しっかりお話を聞いてください。迷子になったら帰って来れなくなるかもしれませんよ。スクリーンを見て、自分のパソコンを見て、松森センセの話を聞いて、3つのことをいっぺんにします。難しいけどできますか」。「はーい」元気いっぱいの返事が返ってくる。
 静まり返った中でマウスを動かす。画面が変わるたびに声が上がる。真剣そのものの目で見つめている。ひとしきりマウスを使ってゲームに興じた。ゲームにのめり込んでいく集中力には驚いてしまう。
 「では今からパソコンの世界から出ていきますよ」、「ええ!もう終わるの」「もっとやりたいなぁ」一斉に声が上がる。「松森センセが出口まで案内するから、迷子になったらいつもの学校の世界に戻れなくなってしまうよ。給食も食べられないぞ。さあいくぞ!」。デスクトップに戻ってくる。いきなり松森センセが頓狂な声を上げた、「あれ、○○君がいないぞ。パソコンの世界で迷子になってるのかな?」。視線が○○君の席にくぎ付けになる。神妙な空気が流れる。「センセ、○○君今日お休みやで」と声が出る。「あ、そうか。よかったよかった。パソコンの世界に忘れて来たかとびっくりしてしもうたわ」と言うと、「よかったなぁ」と何人かの人がうなずいてくれる。最後に「こんな字で、シャットダウンと書いてある所をクリックしてください。パソコンとさよならをします」と言うと、さも別れを惜しむかのように押すのをためらったり、エイッとばかりに決断をこめて押したり、押した後画像が消えてゆく画面に、バイバイと声を漏らしながら手を振る人たちもある。
 先生次はいつなん、今度は何すんのん、と帰り際に話しかけてきたり、友達とおもしろかったなぁと言葉を交わしながらパソコン室を出ていく姿があちこちに生まれる。こうなったらしめたもの、子どもたちは6年生で卒業するまでパソコンの授業が好きになってくれることまちがいなしである。